上阿多野の水掛菜

1 水掛菜の栽培

 北駿地域には富士山の雪に超因する自然湧水が20ヶ所もあり、この湧水は年間13℃内外を保ち冬暖かいので、その保温効果をねらってとう菜の水掛栽培が行われ、これを水掛菜と呼んでいる。この特産そ菜はその栽培も古く、明治19年頃に越後から導入され、明治30年頃には北駿各地で栽培されるようになったと言われている。。この水掛菜の栽培は、その後、広く普及をみ現在では当地域の水田裏作の唯一の冬作経済そ菜として、その面積も70haに及んでいる。

 阿多野の水菜がなぜ育ちが早い?美味しい?
 阿多野地区の灌漑用水には阿多野用水路から水菜の田に引水しています。この水は、年間一定の温度で湧き出た後、先人が作り上げた、長い隋道の中を流れ上阿多野地区で冷たい外気に触れます。通常、2月3月の厳寒期に川の水温は外気にさらされるとさらに低くなりますが、阿多野用水の水温度は外気温より10度以上暖かく保たれるのです。一般の湧水(湧き水)は水源地より約1kmの下流になると流水温は約5℃低下し、200m毎に1℃低下します。流水温の低下の主因は気温によるものである。このことから、阿多野地区の水菜の摘みとりが早いのです。

水掛菜の栽培暦

9月 10月(初旬) 11月 12月 1月 2月 3月 4月
稲作収穫 土作り 耕起・基肥・畦上 水掛け 水掛け 追肥 収穫 収穫 つぼみ
  基肥
(10a)


播種
N-3k
P-2.4k
K-1.8

1.5〜1.8リットル(覆土はしない)
本葉4〜5枚   N-3k
(1回、分施)

2月中旬から3月中旬に収穫されます。
 

2  品種および栽培型

 この栽培は現在約500戸の農家によって集団的に栽培されているが、種子はすべて自家採種がされているしかし当地域で栽培されているものの中には、抽苔の早い早生系と遅い晩生の2種類がある。標高の低い海抜350m付近の富士岡地区(駒門・中清水)では、カマで根元から刈り取る早採り栽培(刈菜)が多く栽培方法は大同小異でさして変わるところがない。また、栽培の主体は上阿多野・阿多野・上小林・奈良橋などで栽培される晩生系である。この摘みとり方法は、1本1本10cmから20cmに伸びた茎の茎の柔らかい部分を手摘みする摘菜(つみな)と区別して呼ばれており、摘菜は2月以降に阿多野地区から手摘みの生葉として最初に市場・八百屋に出荷される。


3  栽培と問題点

(1)耕起、畦(うね)作り
  
水掛菜の栽培には畦作りがもっとも重要で且つ所要労力の大きい作業である。畦の良否は生育および収穫に大きく影響される。即ち畦作りの不備は灌漑水(かんがい水)の浸透を阻害し、土壌中の温度を保持する事ができず、これが厳寒期の根茎の冷害や凍害を誘発させ、大被害を受ける事がある。したがって、良い水掛菜の生産を高めるためには、先ず畦作りから細心の配慮が必要となる。畦作りは早生稲を刈取った後、水透しのよい様に下層土まで出来るだけ粗く深耕し、(別図)の様に、畦幅約1m、畦高さ40cmの特殊な畦を作り、灌漑水の浸透をよくさせるため、畦に灌漑水路と排水路を設け畦の表面だけ種子が均一に播けるように細かく砕土する。これは、畦の中の土壌構造を出来るだけ団粒」構造に保ち、酸素の供給を促すと同時に常に新しい温度の高い湧水を畦中に十分浸透させ、作物を寒さから保護し、根の活力を高め養分吸収機能を活発にさせる役割を期待するからである。この点、従来はこれらの作業がすべて鋤や鍬を用いて人力で行われていたので、畦作りが比較的理想的に行われていましたが、農業機械の発展で作土が均一に細かい土塊となって畦立てされるので作業が能率的に行われる反面、水掛菜の生育に必要な土壌条件が満たされず、例えば透水不良による冷水の停滞は根を腐敗させるなど、こと水掛菜の栽培に関する限り機械化の弊害とも考えられる。このためには、機械の耕転爪の調整や回転数の低減等の細かい配慮により出来るだけ粗く耕起し、より理想的な畦作りを工夫したい。



(2)播種
  
水掛菜の播種量は一般的に10アール当り1.5〜1.8リットルで、畦全面に均一に散播するが、この場合、覆土は必要としない。播種後5〜7日位で発芽し、11月上旬までに本葉4〜5枚くらいに生育するのが普通である。その頃になると当地は例年急激な気温の低下をみるので、低温障害を受けないように気温の状態をみて、水掛けを始め、厳寒期」に至っては特に水掛量をふやし、常に新しい水が灌水路に充分灌漑されていることが望ましい。なお、常に水掛の円滑を図れば、その他収穫までの特別な管理は必要としない。


(3)施肥
  施肥量は、一般的には10アール当り N・・・3kg  P
2 ・・・2.4kg  ・・・1.8kg.位を砕土の際に施す。湧水の上流地域では、水温か高いため施肥量が若干少なくても比較的旺盛な生育を示す。栽培型別にみると、早生採り栽培では短期間に茎葉を生育させるためにやや多く施し、前述の施用量に加えて更に N・・・3kg.位を即効性肥料で2回に分けて追肥することより効果的である。また、普通栽培に於ける N質肥料の極度な晩期追肥は、苔の苦味を強めるので注意が必要である。


(4)収穫
  水掛菜の収穫は、刈菜で1月から2月に刈取るが、摘菜では、2月から3月中旬ににかけて抽苔した若い新鮮な茎を手摘みして、10kgの束にして出荷される。10aあたりの収穫量は、刈菜で1.0t、摘み菜で1.0t〜1.5t位得られる。収穫した摘み菜は日陰かコモを掛け直射日光に当てないようにし、鮮度を保たせたい。